1987年生 ● シューレ大学 ● NPOスタッフ ● 不登校=小学2 ● シューレ在籍=19歳〜27歳
シューレ大学で深めた学び
酒井さんは小学校2年生の時に不登校がはじまり、途中で学校に行く時期もありましたが、高校の資格を取るまで家を基盤に暮らしてきました。
シューレ大学には19歳で参加。自分には一般的な進学は合わないから、フリースクールのような大学があればと思い「何かをしなければならない」というようなプレッシャーをあまり感じず、自然な流れで入ることになったそうです。
体験入学では、チェーホフの『桜の園』を読んでディスカッションする講座があり、ここで「文学のことを話し合えるんだ」と思ったそうです。
シューレ大学に入り、様々な講座やプロジェクトに参加。演劇プロジェクトで俳優を経験したり、数学、英語などの講座にも参加しましたが、やはり、文学に関する講座が中心でした。詩・小説・エッセイなどを書いた作品を持ち寄って意見交換をする「創作ディスカッション講座」、評論家の芹沢俊介さんに付き合って頂いて1回に基本1作品を読みこむ講座「文学を読む」、文学、美術、音楽などの歴史を作家単位で辿っていく講座「文化史」、テーマごとに基礎的な知識を踏まえフィールドワークをする「東京文化アクセス」などの講座です。酒井さんは言葉を丁寧に捉え、自分の考えを深め、文字として表すということを積み重ねました。
その中で、「笑いについて」など何がしかについての思索を発表する機会を持ったり、自分の思索を綴ったフリーペーパーを発行したりしました。
酒井さんはシューレ大学のニュースレターに「学業」に対する「学行」という言葉でシューレ大学の学びを以下のように書いています。
「ここ(シューレ大学)には特定のことを学び修めようとする【学業】よりも、終わりの無い問いを抱えながら長い人生を相手にしようとする実践の【学行】がある。……明快なかたちに残る【学業】よりも、はかりえない【学行】によって、僕は非合理的なりにシューレ大学で学んでいるつもりだ。これは人生で成功するための学びでないかもしれない。だとしても、人生を成功させようとする学びではあるのではないか。(『シューレ大学活動報告』No.22、2014年1月8日)
2011年からは、シューレ大学が新宿から委託を受けて運営していた家をベースに暮らす人の交流サイトに詩を発表するようになりました。日々の暮らしの中で感じ、考えたことを今まで生きてきた経験と重ねて丁寧につむいだ詩を発表しています。
働きつつ、詩作をつづけていく
最近シューレ大学を修了した酒井さんは、学びを何らかの形で表現する「報告会」の中で、「『私的』だった寂しさから」と題した発表をしました。
その中で「教育によって。家族によって。そして自分自身によって。シューレ大学は、私の人生の排除に抗する場になっていたのだと思います。反貧困の場、というとものものしくなりますが、端的に、たくさんのつながりになった場だと言い換えることも出来ます。貧困への危機のあった私が、つながりを得て、『プライベート』な状態から遠のいたんです」と書いています。
2015年春からは、働く意志のある高齢者の就労を支援するNPOで働き始めました。高齢者と一緒に労働の現場の公園に行って清掃をしたり、事務仕事をしたりしています。職を得るということで、「自分が社会的存在になる」と感じたのだそうです。
合理的な作業が重要なこととされる職場に、どう折り合っていくのかが課題だといいます。それは、そのような価値を持つ学校に傷ついてきた経験を持つからです。社会的な少数者の視点を忘れないでどう折り合いをつけるのか。この視点を忘れてしまったら自分自身が生きてきたことと整合性がとれなくなり、幸せになれないと感じられるからです。
働きながら、酒井さんは詩作を続けていくといいます。詩の専門雑誌『詩と思想』2015年5月号に酒井さんの詩は掲載されています。